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F1ドライバーのドライビングで、F1グランプリが開催されるコースを走る。McLaren 720S

F1ドライバーのドライビングで、F1グランプリが開催されるコースを走る。 日本グランプリでは、そんな夢のような企画が実現した。

マクラーレン720Sでレーシングスピードを経験すると、 F1マシンとロードカーの両方を開発するこのブランドの真の姿が見えた。
Photographs&Text:Takeshi Sato

マシンを駆ってこそわかるマクラーレンの感動体験

ピットレーンを出てコースに躍り出たマクラーレン720Sがフル加速すると、強烈な力で身体がシートに押しつけられ、ふっと意識が遠のくような感覚に襲われた。前方の巨大なブラックホールに吸い込まれるような加速感は、いままで経験したことがない。
これは、10月7日のF1日本グランプリ決勝の直前に行われた、ピレリ・ホットラップのひとこま。今シーズンよりF1では、ファンやカスタマーがスーパーカーの助手席でグランプリコースを体験できる企画が行われている。幸運にも、マクラーレン720Sで鈴鹿サーキットを全身で経験する機会に恵まれたのだ。
フル加速に続いてフルブレーキング、今度は脳内の血液が額のあたりに集中する!
これまた経験したことのない強力な減速Gに目を白黒させていると、ドライバーが「Are you OK?」と気遣ってくれる。この物腰の柔らかい、紅顔の美少年はランド・ノリス選手。2019年よりマクラーレンF1のドライバーを務めることが決まっている、弱冠18歳の天才だ。世界一速い10代、と呼びたくなるノリス選手は、マクラーレンの若手育成プログラム出身。いわばマクラーレンが手塩にかけて育てた秘蔵っ子で、すでにいくつかのグランプリでマクラーレンのF1マシンを駆る。
テクニカルな鈴鹿のコーナーを、ノリス選手は時にドリフトを見せながら軽やかにクリアする。これがF1ドライバーのテクニックか……、と見とれていると、前を走っていた他社のスーパーカーに追いついてしまった。「あなたのほうが断然速い」と伝えると、ノリス選手は「圧倒的にクルマがいいからね」とニヤリ。公道を走るマクラーレンのスーパーカーには、F1をはじめとするレーシングマシンのテクノロジーが注ぎ込まれているという説明を受けてきた。実際にグランプリコースで、F1ドライバーが走らせると、マクラーレンの出自を腹の底から理解できる。やはりマクラーレン720Sは、F1マシンの直系なのだ。


1 ステアリングホイールを握るのが、マクラーレンが育てた驚異の新人、ランド・ノリス選手。柔和な人柄とは裏腹 に、速さは折り紙付き。 2 サイズ別にずらっと並べられたヘルメット。レーシングスーツとともに、主催者が用意 してくれる。 3 第1コーナーから始まり、シケイン、最終コーナーと、鈴鹿のコースが詳しく解説された。

 


F1の決勝がスタートする数時間前というタイミングでピレリ・ホットラップは行われた。写真の720Sのほかに、570GTもスタンバイ。

F1のDNAを受け継ぐマシンとロードカーの密なる関係

サーキット体験の興奮冷めやらぬまま、ヘルメットとレーシングスーツを脱いだノリス選手に話を聞く。初来日で鈴鹿サーキットを走るのも初めてだが、楽しかったと笑う。 「高速コーナーが多くて、とてもエキサイティングなコースです。720Sはパワーがあるからバックストレートでは270~280km/hに達しますし、テクニカルなS字コーナーや逆バンクもスムーズです」
F1マシンとの違いは、という質問には「全然違います」と答えた。「F1は速く走るためだけにつくられています。一方、720Sはドリフトをしたり滑らせたり、楽しく走るためのクルマ。マクラーレンのロードカーにはほとんど乗りましたが、720Sが一番好きですね。デザインがカッコいいし、何より速い!」
マクラーレンのF1ドライバーになる来シーズンについて尋ねると、「目標はありません。なにぶん、初めてのことなので(笑)」という。気負いのないリラックスした笑顔は、奥に秘めた自信の表れか。いずれにせよ、F1における最年少での勝利やチャンピオンといった記録を更新する可能性がある男、ランド・ノリスという名前は覚えておいて損はないだろう。
もう1人のマクラーレンのキーマンにも話を聞くことができた。スポーティングディレクターに就任したジル・ド・フェラン氏だ。マクラーレンのF1活動を統括するフェラン氏は、ロードカーとF1マシンの関係についてこう語る。
「ひとつの企業ですから、ロードカーとレーシングマシンは同じ文化、同じテクノロジーで開発されています。F1開発の人材が市販車を担当することもあれば、その逆のケースもあります」
では、ロードカーとレーシングマシンに共通するマクラーレンの文化とは、どういうものか。 「パフォーマンスのためにデザインすることで、スイスの機械式時計のような機能美をたずさえていることです。これまでの常識を覆すものである点や、素晴らしいハンドリングを備えていることも、両者の共通点だと言えるでしょう」
マクラーレンのロードカーに試乗していつも感じるのは、はったりや無駄な飾りのない、研ぎ澄まされた高性能とデザインだ。そしてこのふたつは、最高峰のバトルから生まれたものであることが、鈴鹿でよくわかった。この真髄は、日本で好評を博しているトラックデイなどのイベントでふれることができるはずだ。それが待ちきれなければ、マクラーレン正規販売店に足を運んでみてはどうだろう。英国の開発拠点の最新映像を表示する巨大な「ウォーキングウィンドウ」などで、すべてにおいて妥協しないマクラーレンの姿勢を体感できるはずだ。

 


1 F1マシンがピットインする模様。マクラーレンクルーの手際の良さが光る。 2 1967年にブラジルで生まれたジル・ド・フェラン氏は、インディ500での優勝経験がある名ドライバー。引退後もレースに携わり、2018年よりマクラーレンのスポーティングディレクターに就任。 3 1999年にイギリスで生まれたランド・ノリス選手は7歳でカートを始める。若年期よりマクラーレンに育てられ、来年からF1へ。

 


ホットラップに用いたマクラーレン720Sは、まったくのノーマルだという。サーキット向きに手を加えなくてもこれだけ走るというのは、驚きというほかない。

 


機能美という表現がふさわしいインテリア。センターコンソールにはタッチパネル式のスクリーンが備わり、ここで車両セッティングやカーナビを操作する。

McLaren 720S

全長4,543 mm
全幅(ミラー展開時)2,161 mm
全高1,196 mm
車両重量(DIN) 1,419 kg
エンジン種類/型式V型8気筒ツインターボ/4.0L
総排気量3,994 cc
最高出力(ECE) 537kW(720PS)/7,500rpm
最大トルク(ECE) 770N・m/5,500rpm
使用燃料(ガソリン) 無鉛プレミアム
燃料タンク容量72 ℓ
3398万8000円〜

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