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CARTIER サントス=デュモンのダンディズムにオマージュする スケルトンウォッチ


カルティエの「サントス」ウォッチを見ると、いつもフランスの印象派画家のギュスターブ・カイユボットの絵画を思い出す。生前はほとんど絵が売れずに貧乏な生活をしていた印象派の画家たちの間で、資産家の家庭に生まれて絵画を売って生計を立てる必要がなかった異質な画家だ。パリの上流階級の日常生活を描いた絵を多く残しているが、絵を売らなかったため認知度は低い。

以前、ブリヂストン美術館で開催されたカイユボット展に行ったとき、目に留まったのが〈シルクハットの漕手〉という絵だった。周囲のボートはランニング姿の漕ぎ手が一生懸命に漕いでいるのに、一人だけ上着を脱いだだけの上等そうな服装に、蝶ネクタイにシルクハットを被って優雅にボートを漕いでいる紳士が描かれていた。その姿にサントス=デュモンの姿をダブらせてしまうのだ。

1901年、アルベルト・サントス=デュモンは飛行船によるエッフェル塔周回レースに優勝し、一躍英雄となった。その後、発明されたばかりの動力付き有人飛行機に挑戦を決意。そんなとき、友人であった宝石商ルイ・カルティエに飛行中に時計をいちいちポケットから取り出すことの不自由さを相談し、誕生したのが初めての腕時計だった。

サントス=デュモンはもともとブラジルで広大なコーヒー農園を営む家に生まれ、その莫大な遺産を手にした資産家であった。パリの社交界では顔役で、とりわけそのダンディぶりは広く知られていた。何しろいつ墜落するかわからない命を懸けた飛行時でも、ネクタイを着用した正装にシルクハットを被り、おまけにジャケットのラペルにはカーネーションを一輪挿していたという。さらにカルティエには腕時計をリクエストしたというわけで、そのダンディぶりは見事というしかない。

そんなサントスのダンディズムを表現したのが「サントス デュモン」の新作ウォッチだ。スクエアケースにベゼルのビス、飾り付きリューズ、ブルーカボションなど、1904年のオリジナルモデルの意匠を引き継ぐ。そしてそのエレガントなスタイルはそのままに自動巻きのスケルトンムーブメントを採用し、モダンにアップデートを果たした。ダイヤル右下にはサントス=デュモンの冒険心の象徴である1907年製の初期の航空機「ラ ドゥモワゼル」を象ったマイクロローターを採用。飛行機がクルクルと旋回するように回転するローターの趣向はサントス=デュモンのダンディズムの精神を表しているかのようだ。

ほぼ同時代にパリの上流社会で過ごしていたサントスとカイユボット。カイユボットがもう少し長生きしていたら、同じシルクハットを被った紳士でも、ボートではなく、腕にカルティエの時計を着けて飛行機に乗るサントスを描いていたかもしれないと想像すると胸が熱くなるのである。


サントス デュモン
1904年に登場したオリジナルモデルの意匠を継承しながら、スケルトンダイヤルでモダンに仕上げた。ムーブメントには新型の自動巻きキャリバーCal.9629 MCを採用し、マイクロローターには飛行機がデザインされ、クルクルと旋回するような動きも斬新だ。この飛行機はサントス=デュモンが1907年に考案した「ラドゥモワゼル」がモチーフとなっている。18KYGケース。自動巻き。ケースサイズ43.5×31.4mm。587万4000円。㉄カルティエ カスタマー サービスセンター☎0120-1847-00

Photograph:Takeshi Hoshi

2023年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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