【HORLOGERIE-FASHION Vol.32】遠山周平の洒脱自在 


『常の美』とは、くつろいだときも優雅さを醸し出すエレガンスのひとつ。エルメス時代のマルジェロや前セリーヌのフィービー・ファイロも試みたコンセプトだ。今回はこの洒脱な装いを、スポーツベースで表現した、ニューノーマルの旗手をご紹介。

Vol.5 アスリートスピリット香る紳士のサマーセットアップ

57年前の東京オリンピック開会式で日本選手団が着た赤いブレザーは、全国の腕に覚えのあるテーラーたちが選手の体型に合わせて一着づつ手作りしたオーダーメイドの逸品だったという。

生地も大同毛織の特注ウールだったあの贅沢な赤いセレモニーウエアには、開催都市としての礼節を踏まえた、古き良きスポーツスピリットを感じるのである。アスリート専用だったスポーツウエアが、ゴルフやテニスの影響で街着へ進出したのは戦前のこと。今や、スポーツをテーマにしたメンズコレクションはハズレが少ない、と定説を得るほど、メジャーな存在になっている。

今回紹介するデサントポーズは、スポーツと服飾デザインの旬をリーズナブルに賞味できる服である。ポーズは音楽用語から取ったもので、意味は小休止。転じて、全速力でなく時に休憩して生活を楽しむ服、をめざしているそうだ。

デサントはトップアスリートたちのウエアを開発してきた、ハイスペックな技術を誇る会社。そんなメーカーが本気で、シンプルな日常を快適にするユーティリティーウエアの開発に取り組んだのがこのブランドだ。そのコレクションの特長を一言であらわせば、リラックス&エレガンスになるのではないか。

それは『常の美』。つまりは、くつろいだ日常のなかでも優美さを失わない、今の時代にふさわしいニューノーマルなコンセプトといえよう。『常の美』は、エルメス時代のマルタン・マルジェラやフィービー・ファイロがかってセリーヌで試みた洒脱自在な装いのひとつでもある。

美の巨人たちが、上質な天然素材を使って表現してきたコンセプトを、デサントポーズは、ハイテク素材に代えてデザインしたものといえば、褒め過ぎか。 このブランドが得意とする手法に無双仕立てがある。これは表と裏を同じ生地にしてステッチを排し、見た目を軽やかにした仕上げ法。しかしながら布地が2重になるために、下手な素材を使うと重くなり、見た目のエアリーさが着心地に反映されない危険があるものだ。

しかしデサントの誇るハイテク素材なら、無双仕立ての長所も倍加されるわけだ。空気のように軽量なうえに、レーザーカットしても端がほつれない生地だから、裾やポケットの処理も極端に薄くできる。まさに第2の肌ような未来的な着用感を満喫させられる。

筆者は、ストレッチが効いた定番のスーツを愛用しているが、今回はナイロンなのに洗い晒しのコットンのように見えるCEBONNER®︎という素材を使ったセットアップを選択してみた。こうした天然素材ライクな服は、あえてスポーツらしくない色柄を選ぶのが洒脱。イチ推しは、グレンチェックのイエローであろう。

定番スーツよりもゆったりした作りで、よりトレンドを意識したデザインになっているのも嬉しい。4色展開。リモートワークや旅着、そして自転車通勤などにも重宝する。グレンチェックジャケット3万7400円、グレンチェックパンツ2万3100円。問デサント ポーズ(デサント ブラン 代官山 Tel.03-6416-5989)

スーツのインナーとしてお勧めが、驚くほど着心地がいい半袖ニット。その秘密は超長綿をコアヤーンにして、ポリエステルフィラメントでカバーしてあるハイブリット素材にある。フィラシス半袖プルオーバー1万8700円。問デサント ポーズ(デサント ブラン 代官山 問03-6416-5989

Profile
SHUHEI TOHYAMA
1951年、東京生まれ。服飾評論家。面白くもなき老後を洒脱自在に、がこのごろのモットー。新型コロナウイルス禍の下では、裁縫男子の趣味を生かして、昔、一流どころで仕立てたスーツを分解研究するヒマつぶし。たまにコレクション見物へ出ては、若手クリエーターの才能に刺激を受けたり、がっくりしたり。友人が少ないために、夜のクラブ活動は、自然にソーシャルディスタンス。そんな偏屈おやじの退屈読本、お気に障りましたら、ご容赦のほど。

 

Photograph:Hisashi Wadano

2021年6月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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