【HORLOGERIE-FASHION Vol.33】遠山周平の洒脱自在 


パリのアパート兼アトリエで悠々自適に暮らすペイントレ(画家)をイメージしたツナギ。フレンチワーク&サープラス系の服作りで一世を風靡したクリエーターと今もっとも輝いている『レショップ』がコラボした傑作をご紹介!

Vol.6 気分は20世紀の巨匠!画家LiKEなツナギ

『日曜美術館』というTV番組をたまに観る。アートの知識はまるでないけれど、出演者の服装を観察するのが好きだからだ。とくに若いころパリに遊学した経験を持つ、初老の画家や彫刻家の着こなしが「見事だなあ」、と感じる。

彼らは、生まれついての美的センスがあるうえに、パリでの洗練体験も加わり、自らの個性を引き立てる独特の着こなしを身につけていることが多いのだ。筆者には、それがとても参考になる。

いっぽう番組内で紹介される20世紀の美の巨匠たちの作業着姿も面白い。石や木の削りカスやさまざまな絵の具が飛び散ったカーバーオールジャケットやツナギを着た彼らのポートレートは、どれもそれぞれ味わい深く、何かを一心に追求する過程では3K作業も厭わないという、男の格好良さがにじみ出ていて、憧れてしまうのである。

さて突然ここで、まったく別の告白をさせていただこう。じつは、筆者の今のワードローブの大半を構築しているのは森万恭(もりかずやす)という男がクリエーティブディレクターをしていた時代の、あるブランドの服である。

森さんは現在、フォトグラファーとして活躍中のため、彼の新しい服を着ることが出来ない。それが残念である。そしておそらく、業界に多数存在する森さんのシンパも同じ思いであろう。

そんなとき森さんの古巣であるベイクルーズが粋な計らいをしてくれた。仕掛けたのは、レショップの気鋭コンセプターとして知られる金子恵治さん。金子さんは、ファッションデザイン休眠中の森さんを覚醒させ、氏が生み出した伝説的アイテムをレショップの別注品として復活させてくれたのである。

そのブランド名を森さんが以前同社で立ち上げた『エカッション パーソネル』としたのも金子さんの憎い演出だ。このスペシャルなコレクションはどれもすこぶる素敵だが、悩みに悩んで選んだのは、森さんがペイントレ(画家)と名付けたツナギである。

上下をオールインワンにしたこのツナギは、一見シャツをパンツにインしたように周到にデザインされており、無駄なく機能的だけれど、決して作業着には見えない。しかも時流に左右されてしまう今どきのファッションアイテムとは一線を画した骨太さがある。

「音階でいうとメジャーセブンスの領域」と森さん。たしかに一度袖を通すとずっと着たままでいたくなるほど心地が良く、しかも自分の個性をひとヒネリ魅力あるふうに引き出してくれるドレスコードに仕上がっていることを感じた。

これを着ると、あの『日曜美術館』の初老の芸術家たちが醸し出す洒脱自在なオーラに、少し近づけた気した。最後に秘訣を伝授。森さんの服はウエストンのシグニチャーローファーにマッチするように作られている。お試しを。


後ろ姿にもこだわりが!
通常はTシャツの上に。洒落たいときは黒×白のポルカドットのスカーフを巻く。かぶり慣れたソフト帽というのも素敵だ。柔らかで厚みのあるリネンなので、真夏と真冬を除き、通年着用可能。ツナギ6万1600円。問レショップ青山店 tel.03-5413-4714

同じ素材でカバーオールジャケットも用意されている。季節によってはツナギの上に羽織るのもいい。森さんのジャケットは後ろ姿が格好よく見えるように工夫されている。上着5万9400円。問レショップ青山店 Tel.03-5413-4714

Profile
SHUHEI TOHYAMA
1951年、東京生まれ。服飾評論家。面白くもなき老後を洒脱自在に、がこのごろのモットー。新型コロナウイルス禍の下では、裁縫男子の趣味を生かして、昔、一流どころで仕立てたスーツを分解研究するヒマつぶし。たまにコレクション見物へ出ては、若手クリエーターの才能に刺激を受けたり、がっくりしたり。友人が少ないために、夜のクラブ活動は、自然にソーシャルディスタンス。そんな偏屈おやじの退屈読本、お気に障りましたら、ご容赦のほど。

 

Photograph:Naruyasu Nabeshima

2021年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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