【HORLOGERIE-FASHION Vol.31】遠山周平の洒脱自在

カバーオール型ジャケットとゆったりしたワークパンツは、経糸にリネン、緯糸に端切れから再生された糸を使用したヴィンテージな風合いをもつツイル地で、春先も快適に着用できる。Tシャツも同様の糸を使用したメリヤス編みで心地良し。上着3万5200円、パンツ2万7500円、Tシャツ1万450円。問 コンフェクト表参道店 Tel.03-6438-0717

昨年10月に上梓された『SLOW MADEな服づくり』(グラフィック社)は、来るべき循環型生活の日常着がどうあるべきかを我々に提示している。社会のためになって格好イイ、そんな国内ブランドをご紹介!

Vol.4 これからの格好イイを体現する持続的環境主義者の服

コロナ後の遊民生活で基本とすべき理念は何か? 筆者はそれをサスティナビリティと考え、入手してから一度も外へ着て出たことのないポール・ハーデンのリネンコートのアップサイクルを始めた。

筆者がポール・ハーデンに初めて会ったのは2001年。ドーバーストリートマーケットから靴の注文が入り注目された彼は、この年、初のクロージング・コレクションを引っ提げて来日したのであった。遠山 あなたの作るウエア類は不思議な魅力を放っていますね。

ポール 近代的な工場で作る物は、完璧すぎると思います。自然を観てください。直線的なものなんてないじゃないですか。山はこんもりと盛り上がっているし、木の枝は曲がっている。それが自然だし、美しい。ぼくは機械を使わずに、なるべく手動具で済ますことにしています。ケミカルな素材も使わないから、埋めると土に還るし。

てな言葉に乗せられ、つい買ってしまったコートは難物だった。なにしろ着丈は135センチもあってしわだらけ。筆者が着ると、ホームレスのおじさんだ!で、胴体を水平に真っ二つにカットして、全体の長さを縮めようと計画したのである。つまりヴィクトリア朝時代に流行した服のように、ウエスト部分に水平に腰縫目を入れたわけである。

リネンは夏に着るものだと思っている方は多いが、じつは通年着られる素材だ。冬はマカロニ状の中空繊維に空気が溜められて意外に暖かいし、夏はサラッとした涼しげな肌ざわりが嬉しい。このコート、寒さが少し残る春先の季節には最高だった。

さてここで、リネン使いに長けた国内の魅力的な服を紹介しておかねばなるまい。コンフェクトは、産地の作り手を守りながら、ポール氏のように誇り高いクラフトマンシップを保持するブランド。その奮闘ぶりは最近出た『SLOW MADEな服づくり』を一読すれば納得できるはず。

服を裁断するとき、曲線を多用した型紙を真四角な生地にはめ込むため、平均して30%程度の端切れが廃棄されてしまい、環境的に大きな問題になってきた。今回イチ推しの服は、リネン生地の裁断屑を粉砕してワタの状態にし、そこにヴァージンコットンを混ぜ合わせて紡績した画期的な素材を使用している。その再生生地で生まれた服(アップサイクルリノシリーズ)は、まさに循環型社会にふさわしいアイテムだ。

フードロスが叫ばれて久しいが、優れた料理人は、農家が丹精した野菜を無駄なく使って素晴らしい料理を作るもの。コンフェクトの服作りもこれと同じで、多くの協力工場が手間をかけて作ったオリジナル素材だからこそ、愛着をこめてロスなく使いきりたかったのであろう。

作り手の愛を感じる服を大切に着る。つまりはものを捨てずに循環させる。サーキュラーエコノミーな生活スタイルが、これからは格好イイ気がする。


遠山さんのアップサイクル!
難物のコートは、ファッションディレクターにしてライカ使いの名手・森万恭氏やSCYEの宮原秀晃さんの心優しいアドバイスもあってなんとか完成。

Profile
SHUHEI TOHYAMA
1951年、東京生まれ。服飾評論家。面白くもなき老後を洒脱自在に、がこのごろのモットー。新型コロナウイルス禍の下では、裁縫男子の趣味を生かして、昔、一流どころで仕立てたスーツを分解研究するヒマつぶし。たまにコレクション見物へ出ては、若手クリエーターの才能に刺激を受けたり、がっくりしたり。友人が少ないために、夜のクラブ活動は、自然にソーシャルディスタンス。そんな偏屈おやじの退屈読本、お気に障りましたら、ご容赦のほど。

 

Photograph:Hisashi Wadano

2021年3月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。