カジュアル サルトリアルの世界
—コンフォートでありながらエレガント—。
一見矛盾する要素を融合させるキーワードが、ブルネロ クチネリが提唱する「カジュアル サルトリアル」という概念だ。誰が言ったか知らないが、いつからか「お洒落は我慢である」と、まことしやかに語られるようになった。果たして本当にそうだろうか。暑さ寒さや窮屈さは、お洒落のために我慢しなければならないものなのか。確かに、それもひとつのスタイルではあろうし、服飾史をひもとけばそんな話も出てくるに違いない。けれど、現代において求められているのは、快適さと洒脱さを兼ね備えた服である。
何かを犠牲にして成り立つファッションではなく、すべてを包み込んでみせるクオリティこそが望まれている。こうした傾向は、服飾の国際展示会や各ブランドのアプローチにおいても顕著だ。ブルネロ クチネリの新作コレクションには、世のそうした流れに対する明確な回答がある。「カジュアル サルトリアル」という言葉で表現されるのは、柔らかくリラックスしたカジュアル服であっても、上品でセンスのいいメンズスタイルとして成立するという事実に他ならない。
素材やフォルムを吟味し、サルトリアの技術を駆使して作られた服は、どこまでも快適で洗練されている。新たに誕生した「スムース フィット」では、モダンでスポーティなフォルムや機能性と、伝統的なサルトリアが提供してきたエレガンスを巧みに両立してみせた。このミックス感覚こそ、まさにブルネロ クチネリの真骨頂といえるだろう。また色使いにおいては、ネイビーやグレーなどのベーシックカラーに、今季はルビーやオレンジ・茶などを差すスタイリングを提案。
つまり如何ようにでも着まわせて、長く愛用できる服が揃っているということだ。これもまたブルネロ クチネリの強みだろう。カシミヤのカバンコートは接結の抜き仕立てによるダブルフェイス生地を職人によるハンドメイドでフワリと軽く仕上げ、コットンコーデュロイパンツとコーディネート。ネイビーの凛々しさと、ルビー色の洒脱さを最大限に生かしたい。