PATEK PHILIPPE パープル文字盤に深みを与えるエンボスパターンの乱反射
パテック フィリップのレディスウォッチといえば、1868年にハンガリーのコスコヴィッチ伯爵夫人のために製作された腕時計のアーカイブが挙げられる。これは懐中時計を改造したものではなく、手首に着用する目的として作られたスイス最初の腕時計だった。スリムなゴールドブレスレットを持ち、細長いケースにダイヤモンド、七宝、金細工による装飾が施され、カバーを開けると文字盤が現れるシークレットウォッチであった。
この時計は昨年、東京・新宿で開催された《パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション(東京 2023)》で来日を果たし、「ミュージアム・ルーム」で展示されていた。同室にはヴィクトリア女王に献上された懐中時計も展示され、以前からパテック フィリップが上流階級の女性たちの心を掴んでいたことがわかる。
現行のレディスウォッチでは、1999年からスタートし、25周年を迎えた婦人用コレクションの「Twenty~4」がある。コレクションには、クォーツ・ムーブメント搭載の《マンシェット》タイプと、機械式の自動巻きムーブメント搭載のラウンド型タイプの2種類があるが、2024年は《マンシェット》タイプからローズゴールド製の新作が追加された。
マンシェットとは、文字盤とブレスレットが一体化した、シャツの袖口(カフ)を思わせるデザインの「カフ・ウォッチ」のこと。リューズはケースラインをできるだけ損なわないようにケースの窪みに配置され、ブレスレット感覚で楽しめるようになっている。これまでの文字盤はソレイユ仕上げだったが、今作では同心円状の波模様のエンボスパターンを新たに採用し、より立体感を演出。そこに半透明なパープルのラック塗装で何十層もコーティングし、さらに無色透明のラック塗装を重ねることで、奥行きのある効果を生み出した。さらに2重の段差を持つレクタングラー型のケースは、両サイドにダイヤモンドを配置して、美しいラインと文字盤をいっそう強調させている。
文字盤のパープルは《パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション(東京 2023)》のテーマカラーにも採用されていたのは記憶に新しい。日本には603年に制定された冠位十二階という階級区分制度があったが、そこで身分によって色が割り当てられてその色の冠を着用した。その最高位の色が「濃紫(こき)」であった。その濃紫を纏った「Twenty~4」は、最高峰の時計作りを続けるパテック フィリップにふさわしいカラーだ。
振り返ってみると、この新しい「Twenty~4」は、ゴールドブレスレット、スクエアケース、ダイヤモンドに七宝(ラッカー)を備える、文頭に挙げたコスコヴィッチ伯爵夫人のために製作された腕時計のデザインを彷彿とさせる。パープルが高貴な色合いということも相まって、まさに伯爵夫人の腕時計の現代版といえるかもしれない。
現代の女性のライフスタイルにマッチしながら、優れた美的表現力と卓越した創造性を追体験できるどこまでも奥ゆかしいタイムピースだ。
Twenty~4 Ref.4910/1201
今年誕生して25周年を迎えたTwenty~4コレクション。レクタンギュラーケースの文字盤とブレスレットが一体化した《マンシェット》タイプからの新作は、文字盤の波模様のエンボス加工にパープルカラーを配したニューバージョン。ケースサイドには段差を設けて、上段部分には17個ずつブリリアントカット・ダイヤモンドを並べた。このダイヤモンドはピュア・トップウェッセルトンの高品質なものだけを使用。18KRGケース。クォーツ。ケースサイズ縦30×横25.1mm。3気圧防水。754万円。㉄パテックフィリップ ジャパン・インフォメーションセンター ☎︎03-3255-8109
Photographs:Noboru Kurimura
2024年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)