エレガントな表情にファンも増加中! 時計好きはなぜ エナメルダイヤルに 惹かれるのか?
1500年以上の歴史を持つ装飾技法「エナメル」は、ダイヤルにも用いられる技法。手仕事から生まれるため生産量が少なく、エナメルウォッチを手に入れるのは困難だ。しかしその希少性と美しさは、時計愛好家から一目置かれている。
グラン・フーの人気が沸騰中
属板の上に釉薬を塗り、高温で焼くことでガラス質の皮膜を作る「エナメル」は、14世紀以降には、時計にも用いられることになった。世界各地の時計ミュージアムには数百年前の懐中時計が収蔵されているのだが、その多くは美しい白いダイヤルを維持したままだ。
それはエナメルの硬い皮膜は、極めて劣化しにくい素材だからである。それゆえ、高級時計のダイヤルとしては、今でも一定の人気を維持している。
しかしなぜ“一定”のままなのか? エナメル技法は懐中時計の時代に人気を博したが、腕時計の時代になると需要が急減し、時代遅れの技術となってしまった。
となれば、当然エナメル職人の数も少なくなる。ただでさえ製作に手間がかかる上に、生産する職人がいないのだから、量産は不可能である。そのため供給量は増えず、ひたすら渇望感が増している。それが現在のエナメルダイヤルを巡る状況なのだ。
エナメルダイヤルの魅力。それは手作業が生み出すクラフト感にある。代表的なエナメル技法である「グラン・フー」には、“偉大な炎”という意味があり、800〜1000度の炉の中で焼き上げる事で、透明感のある白いガラス質の皮膜が生まれる。
エナメルパウダーを塗り、焼いて冷やすという工程を何度か繰り返していくため途中でクラックや歪みが生じる可能性があり、約60%が完成品前に廃棄処分されるそうだ。
昨今の機械式時計の工程は、可能な限り機械化することで平均レベルの高い製品作りを目指すのがセオリーだ。しかしエナメルダイヤルは、人間の手と炉の炎の中からしか生まれない。そのクラフト的魅力が、“手仕事に飢えた”時計愛好家を魅了しているのだ。
BLANCPAIN
ヴィルレ ウィークリーインジケーター ラージデイト 8デイズ(上)
現存する世界最古のブランドゆえ、古典技法にもこだわりがあり、エナメルダイヤルも自社製。余白を広くとるデザインが得意で、ダイヤルの質感の美しさを堪能できる。8日間巻きのロングパワーリザーブを搭載。ダイヤル外縁部には週表示が入る。自動巻き。18KRGケース。ケース径42㎜。383万4000円。ブランパン 問03-6254-7233
BREGUET
クラシック 7787(下)
エナメル技法を大切に守ってきたブレゲ。スラリと伸びたブルースチールのブレゲ針が、透明感のあるダイヤルに映える。ムーンフェイズやパワーリザーブ表示のバランスは、過去の懐中時計を参考にしており、上質なクラシシズムを堪能できる。自動巻き。18KWGケース。ケース径39㎜。353万1600円 ブレゲ 問03-6254-7211
グラン・フー
GRAND FEU
原料となるエナメルパウダーは、シリカやソーダを含むガラス。糊を塗った銅板の上に粉を振って焼き上げるという工程を何度か繰り返して下地を作る。炉に入れるとパッと炎が上がり、焼く時間は2〜4分。温度変化によって微妙な歪みが生じるが、そのたびに特製の冶具を使って平らな状態に整える。
ULYSSE NARDIN
マリーン トゥールビヨン
エナメルダイヤル専門工房「ドンツェカドラン」を傘下に収めており、様々な種類のエナメルダイヤルを得意とする。装飾技法だけでなくトゥールビヨン機構も搭載しているが、価格はこなれている。自動巻き。SSケース。ケース径43㎜。349万9200円 ソーウインドジャパン 問03-5211-1791
A.LANGE SOHNE
1815 ラトラパンテ・パーペチュアルカレンダー“ハンドヴェルクスクンスト“
芸術的な手仕事を施された、世界限定20本の希少モデル。スプリットセコンド式クロノグラフや永久カレンダーを搭載。ダイヤルには星空を浮彫りにして更にエナメルで仕上げ、ロマンティックな世界を作る。手巻き。18KWGケース。ケース径41.9㎜。29万ユーロ(参考価格)。A.ランゲ&ゾーネ 問03-4461-8080
JAQUET DROZ
グラン・セコンドムーン
小さな時分針と大きな秒針を組み合わせるアイコニックなデザインを、アイボリー色のエナメルと組み合わせた。巨大なムーンフェイズにも彫金加工を施し、味わい深い表情を引き出す。自動巻き。18KRGケース。ケース径43㎜。339万1200円。ジャケ・ドロー 問03-6254-7288
MORITZ GROSSMANN
アトゥム エナメル
ーム色のエナメルを使った7本のみの日本限定モデル。ブラウンバイオレット針に合わせてインデックスも同系色。時刻合わせ後に4時位置のプッシュボタンを押すと、時計が再始動する。手巻き。18KRGケース。ケース径41㎜。442万8000円。モリッツ・グロスマン・ジャパン 問03-5615-8185
まだある深遠なるエナメルの世界
フランケ
FRANKE ULYSSE NARDIN
クラシコ エナメル
金属板に精密なギョーシェ彫りを施し、その上から半透明エナメルをのせて焼き上げるのが「フランケ」という技法。複雑な光の反射が作り出す奥行きのある表情が魅力であり、シンプルなのに芸術的。自動巻き。SSケース。ケース径40㎜。110万1600円。 ソーウインド ジャパン 問03-5211-1791
クロワゾネ
CLOISONNE PATEK PHILIPPE
ワールドタイム Ref5131
絵柄に合わせて金糸で枠を作り、色付きエナメルを流し入れて色鮮やかな絵を描くのがクロワゾネ(有線七宝)。優雅な世界地図が、旅への想いを掻き立てる。自動巻き。PTケース。ケース径39.5㎜。1421万円。パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 問03-3255-8109
Photograph:Noboru Kurimura
2017年11月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)