進化を続ける世界最初の軍用ダイバーズ
ルミノール 1950 8デイズ GMTアッチャイオ (左)
時分針と同軸に、9時位置の24時間計との組み合わせで第2時間帯の現在時が読み取れるGMT針を搭載。8日間パワーリザーブの完全自社製キャリバーP.2002を搭載。手巻き。SSケース。ケース径44mm。100m防水。
ルミノール マリーナ 8デイズ アッチャイオ (右)
2013年に誕生した8日巻きロングリザーブの新型ムーブメント「キャリバーP.5000」を搭載した、ルミノール コレクションのシンプルモデル。手巻き。SSケース。ケース径44mm。300m防水。
ラジオミール 1940 3デイズ オートマティック アッチャイオ
1940年代の「ラジオミール」モデルを原型にリファインした「ラジオミール1940」ケースに、マイクロローター式巻き上げ機構を搭載する「キャリバーP.4000」ムーブメントを搭載。従来・同タイプの手巻きモデルより大幅な薄型化を実現した最新モデル。自動巻き。SSケース。ケース径45mm。
知る人ぞ知る「幻のダイバーズウォッチ」から一躍、世界中の人々を魅了するスポーツラグジュアリーウォッチへ。パネライほどユニークなストーリーを持ち、男心をくすぐる腕時計はない。その特別な歴史と魅力をご紹介しよう。
パネライは「イタリア海軍潜水特殊部隊による水中作戦」のために、同海軍の精密機器納入業者であった。フィレンツェの「G.Panerai & Figlio(G・パネライとその息子)社」が、要請により1936年に軍用ダイバーズウォッチを開発。
そのシンプルで機能的で独創的なメカニズムとスタイルを継承する伝説的な時計ブランドだ。 そして同社のルーツは、さらに70年ほど前の1860年、ジョヴァンニ・パネライが、同じフィレンツェのアッレ・グラツィエ橋付近に構えた時計店にある。
この店は時計工房を兼ね、フィレンツェ初の時計学校ともなった。イタリア海軍第1潜水特殊部隊の水中作戦とは、大胆不敵で危険で命知らず。隊員たちは使用中も水中に空気の泡を排出しない閉鎖式の潜水具を着用。
魚雷を改造した水中艇にまたがって、敵の船舶の船底に密かに接近。時限装置付きの爆薬を仕掛けてくるというものだった。 この危険で苛酷なミッションは、正確で信頼性が高く、水圧にもビクともせず、しかも水中でも確実に時間が読み取れる腕時計なしには不可能だった。
イタリア海軍の納入業者であった同社は1916年、暗闇でも読み取れる計器のためにラジウムをベースにした「ラジオミール」という名前の自発光性塗料を開発し、その特許を取得した。そのため海軍から白羽の矢が立ったのだ。
1938年には現在と同じサンドイッチ構造のダイヤルを持つ「ラジオミール」の原型モデルの生産がスタート。以降、トリチウムがベースの塗料を採用しパネライのアイコンであるブリッジ型のリュウズを備えた「ルミノール」など、改良・進化が加えられながら1970年代まで、さまざまなモデルが製作されることになる。
ただ、軍事機密扱いだったため、一般に知られることはなかった。 しかし1993年、初の民間向けウォッチコレクションの発表でその名は世界中に知られることになる。それ以降の圧倒的な人気ぶりは、皆さんご存知の通りだ。
特に毎年発表される限定モデルは、ムーブメントもディテールの造り込みも時計愛好家を唸らせるものばかり。2002年にスイス・ヌーシャテルに「パネライ・マニュファクチュール」が完成して以降は、機械式ムーブメントの最先端を行く完全自社製ムーブメントとその搭載モデルを続々と開発・発表。時計界をリードするマニュファクチュール・ブランドとしての地位を確立した。
昨年2014年には、ヌーシャテル郊外のピエール・ア・ボットに新ファクトリーが完成。初のマイクロローター式巻き上げ機構を搭載した薄型ムーブメント「キャリバー P.4000」とその搭載モデルが誕生した。今後、コレクションがさらに進化、充実することは間違いない。
また、同年12月にはフィレンツェの象徴、ドゥオーモ(大聖堂)の向かい、サン・ジョヴァンニ広場にあるブティックが拡張リニューアルされたのも大きな話題。時計好きならぜひとも訪れることをオススメしたい。
ジョヴァンニ・パネライ(1825-1897)。彼が創業したパネライは現在も、温度計、気圧計などの精密機器をイタリア海軍に納入している。
1860年、フィレンツェのアッレ・グラツィエ橋の近くにあった時計工房を併設した時計店。
2014年末にリニューアルされたばかりのサン・ジョヴァンニ広場にある現在のブティック。設計&デザイン担当は、世界が注目する建築家&デザイナーのパトリシア・ウルキオラ。
Photos by Noboru Kurimura Text by Yasuhito Shibuya
2015年3月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)