CARTIER 日本との長い関係を記念した 特別なサントスウォッチ
カルティエの制作記録で初めて“日本”という言葉が登場するのは1874年のこと。ゴールドとプラチナ製の一組のボタンについての記述であった。2代目アルフレッド・カルティエが家長を務め、まだ作品の写真撮影は行われておらず、在庫台帳に手書きで作品説明がされていた時代だ。フランスの美術評論家のフィリップ・ビュルティによって「ジャポニスム」という造語が生み出され、徐々に広まり出した時期でもあった。
カルティエ中興の祖である3代目ルイ・カルティエの代になると、アジア、特に日本からのインスピレーションを受けたという記録が残っている。ルイは「日本美術友の会」を通じて美術通の専門家たちと頻繁に交流しており、そのプライベートコレクションには多くの日本の美術作品が含まれていた。こうしたことからルイは日本への理解を急速に深め、作品制作へのインスピレーションを掻き立てる重要な存在となっていたのは想像に難くない。
そうしたカルティエと日本の関わりを紐解く展覧会「結 MUSUBI」展が、今夏、東京国立博物館 表慶館で開催された。1974年に東京・原宿でカルティエのブティックがオープンして50年目を迎え、記念に開催したものだ。会場には、ルイ・カルティエが所有していた日本の印籠とそこからインスパイアされたシガレット用のヴァニティケースや、日本風の飾り結びをモチーフにしたブローチなどの日本を感じさせる作品が展示され、日本がインスピレーションに大きく影響していたことがわかる展覧会であった。
この節目の年に合わせて発表されたひとつが、日本で限定販売される「サントス ドゥ カルティエ」の3針モデルだ。ベゼルとブレスレットの一体化した最新デザインに、全体にイエローゴールドを採用してリッチに仕上げられている。
ベゼルとブレスレットには、パリのエッフェル塔に打ち込まれたリベットのように、ビスを施して力強さを表現する。そして文字盤にはカルティエのデザインコードであるローマ数字は配されているものの、クラシック感を際立たせるレイルウェイ ミニッツトラックはなく、サファイアクリスタル製の風防上にミニッツ目盛りを描いた。少し斜めから見ると、ミニッツ目盛りが浮いているように見えているのが大きな特徴だ。
この文字盤に奥行きを出すデザインは、カルティエのミステリークロックにも通じる仕掛けだ。時分針が浮いているように見える大仰なものではないが、デザインコードを大切に守るカルティエのコレクションの中でこのアレンジはインパクトがある。「結 MUSUBI」展では神社の鳥居をモチーフにした「ポルティコ」シリーズのミステリークロックが展示されていたので、そこからインスピレーションを受けたのかもしれない。
これまで時計にジュエリーに卓越した創造性を発揮してきたカルティエ。キング オブ ジュエラーと呼ばれるそのクリエーションに日本の文化が影響を与えてきたということが、この特別なサントスウォッチをみてもよく伝わってくる。
サントス ドゥ カルティエ
スクエアフェイスにベゼルとブレスレットが連続した一体化デザインをベースに、ミニッツマーカーは文字盤上ではなく、サファイアクリスタルの風防上に描いた日本限定モデル。文字盤はグレイン仕上げのマットなグレー地に、ポリッシュされた植字のローマンインデックスが映える。イエローゴールド製のケース&ブレスレットは、スマートリンクシステムとクイックスイッチを採用しているので工具なしに取り外しができ、付属のグレーのアリゲーターストラップと簡単に交換できる。自動巻き。18KYGケース。ケースサイズ47.5×39.8mm。日本限定50本。596万6400円。㉄カルティエ カスタマー サービスセンター ☎︎0120-1847-00
Photographs:Noboru Kurimura
2024年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)