大粒、ミルキーな赤穂・坂越の1年牡蠣を食べに行く。

舌の付け根が痛くなるほどの旨味を求めて2月の赤穂へ。

子供の頃、牡蠣は苦手な食べ物だった。特有の磯と泥が混ざったような臭いと、スライムのような見た目が苦手だったのだ。大人になって20代後半に、フライなら普通に食べられるようになり、むしろ好きな食材へと変化。本格的に牡蠣の旨味に嵌ったのは、50になった頃だ。

兵庫県西部の播州エリアの住む知人が、牡蠣小屋に誘ってくれたことがきっかけとなった。「赤穂の坂越(さこし)に牡蠣を食べに行こう」。それからほぼ毎年、少なくとも一度、周辺産地を含めると二度、三度は牡蠣を食しに通っている。

牡蠣の全国的に有名な産地は広島県だ。ただ、特に関西では兵庫県と岡山県にまたがる県境周辺の牡蠣が旨いと評判になっている。室津、相生、坂越、日生、牛窓などが主な産地で、リアス式海岸の入り組んだ海と、川がもたらす栄養分が養殖に適しているらしい。

1年で大振りに育つ1年牡蠣で、特有のくせが少なく、濃厚で身がふっくらとした海のミルク成分が豊富。加熱しても縮みにくいので食べ応えがある。

今年も2月の一番おいしいとされる時期に、赤穂の坂越漁港に向かった。ここには海の駅「しおさい市場」があり、牡蠣小屋や食堂が整備されている。週末は臨時駐車場にも車が溢れるほどの賑わいだ。

小一時間待って食堂の席に座る。中央は囲炉裏になっていて、焼き牡蠣が楽しめる。しかし、炭の火力は半端ないほどに強力で、しばらくすると顔だけが火照ってくる。牡蠣が焼けだすと、殻の破片が時に小爆発を起こしながら飛び散り、かなりの緊張感だ。

今シーズンは早い時期に来られず2月になって最初の坂越牡蠣。期待値が高いだけに、がっかりしたくない気持ちもあって慎重に口へと運ぶ。2020年の筆者の判断はまずまず。高いレベルでの平均的な味にちょっとした安心と残念な気持ちが交錯する。

過去7年のうち、2回は噛んだとたんに舌の奥の唾液腺が痛いくらいに旨味があふれた年があった。逆に、2回はスーパーで売っている牡蠣レベルと感じたこともあった。

水温や降水量、筏の位置、訪れた時期などによって生育が変化するので、毎年、毎回同じではないことが楽しみでもある。だからわざわざ通うのだ。

当たるリスクも少しはあるものの、やっぱり牡蠣はやめられない。

牡蠣フライや天ぷら、酢牡蠣などをつまみながら、網の上の牡蠣の焼け具合を見るのは慌ただしい。目安としては平らな方を下にして1~2分焼き、ひっくり返してくぼんだ方を4~5分程度焼けばちょうどいい。

汁が流れ落ちて身だけになると焦げてしまい旨さは半減。生に近いと「当たる」確率が高くなる。実際、2年前は参加した8人と土産を食べた2人の計10人のうち8人がシンガポールの「マーライオン」になってしまった。

ちなみに筆者は無傷だった。フグのように死亡することはあまり聞かないが、牡蠣を食すことは他の食材と比べてリスクは高い。

一通りの料理と焼き牡蠣を食べ終え、加工棟に向い、土産用の牡蠣を買う。2020年の値段は500グラム1400円、1キロ2700円。スーパーのように水がたっぷり入ったチューブでなくほぼ剥き身だけが入っているため、500グラムでも家族4人が牡蠣フライにすれば十分な量だ。

ここの牡蠣は白い部分が若干灰色がかっており、身も大きい。経験で言えば大粒の方が旨味が強い。チューブ入りだけでなく、殻付きも販売しているが、冬の季節、庭で炭火を熾す人は少ないと見えて、チューブ入りの剥き身が人気だった。

室津や新舞子海岸にもお薦めしたいお店はある。

筆者の場合、半ば定点観測のようになっているので坂越には最低でも年一度は訪れているが、近隣の産地もレベルが高い。水揚げされている漁港で牡蠣をいただくという臨場感が好みなら坂越の他に、室津漁港もある。

単純に牡蠣料理を味わうのならば室津の国道250号沿いにモダンな建築の「津田宇水産レストラン」が今シーズンからオープンした。別日にドライブ中に発見して訪れてみたが高台から海を見渡しながら食事が楽しめ、若いカップルのデートでも人気が出そうだ。

そしてせっかくお読みいただいた方に穴場をお教えするなら、牡蠣料理専門ではないが新舞子海岸から少し坂を上った定食メインのお店「大阪屋」をお薦めしたい。この時期の牡蠣フライ定食は値段も手頃で申し分なし。

梅の季節には窓の正面に綾部山梅林の色づいた斜面が眺められる。場所がわかりにくく不便なためか知る人ぞ知るお店だ。

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