【藤崎聡子の一品×逸品ワイン】秋の夜長を味わうアーティスト渾身のワイン

ロゼの成熟度、カベルネ・ソーヴィニヨンがもたらすタンニンの深み、シャルドネの爽やかさ、これらの共通するインパクトに寄り添うのは甘みと辛さと痺れを併せ持つ麻婆豆腐が一番。仕上げに香り高い花椒を忘れずに。

 
作り手の考えが表現されているワインは、ラベルはもちろん、味わうことで自分の感性を揺さぶられる瞬間がある。

伝統と革新。この相反する言葉はワインの世界で常に問いかけられる言葉だ。それはエチケットひとつとってもそう。歴史あるワイナリーがそれを変えるだけでひと騒ぎになる。ボルドーのシャトーは毎年世界的に著名なアーティストにエチケットの製作を依頼しているのは有名な話。

その年の味わいをアーティストならどう表現するのか。味わいを形にするのは非常に難しい。もはや個々の感性に宿るインスピレーションに他ならない、と常々感じている。今回紹介する3本はさらに先を行くアイテム。与えられた味わいではなく、自分たちで味わいから理想を追い求め、それを形にし、誕生させている。アーティストとして音楽や映画や映像の中で人々の記憶に残る世界観を表現する一方で、「味覚の表現」を日々追求しているのだ。

フランスからはシャンパーニュ。アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットがファミーユ・ペランと手掛けているワイナリーの新しい試みだ。6世代続くシャンパンメゾン・ペテルス家とともに5年の歳月をかけ完成させたロゼ・シャンパン。作るのはロゼだけなのも面白い。

カリフォルニアからはカベルネ・ソーヴィニヨンの新しい側面を感じさせてくれる1本が誕生している。手掛けているのはYOSHIKIとロブ・モンダヴィJr.。2008年にプロジェクトをスタート、テイスティングを何度も重ね、その年の個性、熟成の方向性を想像しながら着地点を見極めている。アタックにはカベルネ・ソーヴィニヨンがこんなにもしなやかに寄り添ってくれるのか、と驚きがあるだろう。

日本からは岡山のシャルドネ。建築デザインにワンダーウォール 片山正通氏、エチケットデザインのアートディレクターには平林奈緒美さんを起用し、ワイナリーとしてのブランドを可視化している。求める味わいをどう表現するか、このシャルドネはテロワールの個性、ブドウの成熟度、定点観測したい要素が詰まっている。これら3本、感性に訴えかける味わいを楽しんでほしい。


ノン・ヴィンテージのみこの振り切り方も魅力のひとつ
シャルドネ75%、セニエ方式で抽出したピノ・ノワール25%のブレンド。しなやかさと溌剌としたフレッシュ感、味わうごとに広がる熟成の旨み。先にプロヴァンスで成功しているロゼワインとどのようなつながりを感じられるか試してみたくなる。「フルール・ド・ミラヴァル・ロゼ NV」750ml 6万6000円 ㉄ジェロボーム


今だから飲んでほしい熟成の流れを楽しめる1本
オークヴィルのカベルネ・ソーヴィニヨン100%。香り、アタック、余韻、どれをとっても完璧な仕上がり。YOSHIKIが最高傑作と呼ぶにふさわしいと言っている意味がわかるだろう。10年後も楽しみ。「ワイ・バイ・ヨシキ カベルネ・ソーヴィニョン オークヴィル ナパ・ヴァレー2017」750ml 4万1800円 ㉄ワイン・イン・スタイル


作り手の人柄が優しく表現されているシャルドネ
ラベルのパンダは畑を再生していた時に出てきた置物がモチーフ。シャルドネ96%にメルロとピノ・ノワールをブレンド、18ヶ月の樽熟成はワイナリー初の試み。温度が上がると甘さのある香りが現れる。酸味のバランスもしっかり感じられる。ドメーヌ・テッタ「シャルドネ・バリック2019」750ml 4070円 ㉄ドメーヌ・テッタ

Information Contact
ジェロボーム株式会社 Tel.03-5786-3280
ワイン・イン・スタイル株式会社 Tel.03-5413-8831
ドメーヌ・テッタ Tel.0867-96-3658

Photo:Naruyasu Nabeshima

2021年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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