【PATEK PHILIPPE】黄金分割で導き出した 類まれなるプロポーション

パテック フィリップのティエリー・スターン社長は、かつてゴールデン・エリプスに変更を加えたいと思ったことがあるという。しかし至った結論は「諦めよう、文字盤カラーなどのディテール以外に変えることはできない」ということだった。以前にパテック フィリップの関係者から聞いた話によると、ティエリー社長の代になって時計のデザイン性が格段に高まったと感じるという。そのティエリー社長をもってしても、手を加えるところがないほどゴールデン・エリプスは非の打ちどころのない時計だったのである。
ゴールデン・エリプスを特徴づけているのは、言わずもがな独特なフォルムだ。楕円形でも長方形でもないケースラインは、黄金分割に基づいている。黄金分割とは、線分をふたつに分け、黄金比で長さを分ける方法で、エジプトのピラミッド、ニューヨークの国際連合ビル、日本の金閣寺といった古今東西の人工建造物から、人体のプロポーション、ひまわりの花、葉の形といった自然界にも多く存在する。いわば、もっとも安定して調和のとれたバランスの法則に則っているのだ。
もっとも誕生から50年を経たゴールデン・エリプスも試行錯誤がなかったわけではない。1968年に登場したファーストモデル以前には、ラグ付きのゴールデン・エリプスも存在した。腕時計の機能としてラグを備えるのはセオリーであるが、プロポーションはどうしても損なわれる。そこでパテック フィリップはラグを裏蓋と一体成型させることでラグを省き、造形美を優先させてゴールデン・エリプスに完璧性を求めたのである。
一方で、パテック フィリップにとって、時計製造の向き合い方を考えさせるコレクションでもあった。それまでのパテック フィリップは多くの時計メーカーと同様にケース専業メーカーに提案される中からケースデザインを採用してきた。しかし、ゴールデン・エリプスはこのような慣習に従わず、自社でデザインを行い、ケースメーカーに製造させた。そして他社には真似できないケースを実現させたことが、その後の内製化の加速に繋がっている。
現行のゴールデン・エリプス Ref.5738は、誕生50周年の記念に登場した「ジャンボ」サイズのロングセラーである。冒頭のティエリー社長の言葉のように、変更を加えるのは相当な勇気がいるだろう。アラビア数字インデックスにスモールセコンドや手彫金による渦巻模様が施されたレアハンドクラフト。今年登場した新しいチェーンブレスレットのバリエーション。いずれもケースのプロポーションは損なわれないように細心の注意が払われている。
文字盤は漆黒のエボニーブラック・ソレイユ文字盤に、ゴールドのバーインデックスと時分針のみ。搭載されるムーブメントは、マイクロローターによる極薄を実現したCal.240 を採用し、ドレスウォッチにふさわしいスリムな仕上がりに。手を加える必要のないという意味では、文字盤・外装デザインのみならずムーブメントにも及んでおり、パテック フィリップらしい王道の時計といえるのである。


ゴールデン・エリプス Ref.5738
黄金分割に基づいたオーバル型のプロポーションは、極上のドレスウォッチの代名詞。深い黒が印象的なエボニーブラック・ソレイユ文字盤に、ローズゴールド製のインデックスと時分針を備える。ケースは2ピース構造で、ラグは裏蓋と一体化してケースラインを損なわないようになっている。バックルもケースと同じオーバル型に。搭載されるムーブメントは、厚さが2.53mmからキャリバー240と名付けられた自動巻きで、ドレスウォッチにふさわしいスリムな仕上がりに。自動巻き18KRGケース。ケースサイズ39.5×34.5mm。3気圧防水。603万円。㉄パテックフィリップ ジャパン・インフォメーションセンター ☎︎03-3255-8109
Photographs:Noboru Kurimura
2024年11月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

