ラグビーワールドカップがちょっとしたブームに!
いやー、ラグビーワールドカップが日本でちょっとしたブームになっていますね。勿論、日本代表の大躍進が一番の要因でしょうが、世界中から集結したトップレベルの選手達が繰りひろげる熱い戦いを視聴し、多くの日本人がラグビーという競技自体の面白さに気付いてくれたことはとても喜ばしいことです。
また、初めて触れた日本の文化やおもてなしに対して、来日した多くの海外のラグビー選手やファンが感動して感謝の意を表し、日本流お辞儀が大流行。逆に初めて触れたノーサイド等のラグビー文化に対して、多くの日本人が共感し感動し、お互いにとって非常に良い循環が起こっているように思います。
筆者自身は、正直今の状況を予想しておりました。どう考えても、ラグビーは日本人が大好きな要素満載のスポーツなので、触れる機会さえあれば虜になる人は多いはずと。もう既にラグビーワールドカップ関連の観戦記やルール説明等の情報は乱立しているので、敢えてここでは詳しくは触れないようにいたします。
因みに筆者は、日本VSアイルランドをスタジアムで生観戦いたしました。凄い試合でした。ただ、このコラムが読まれる頃には、もっと日本中が沸き立つ状況になっているかもしれませんね。この試合、日本チームの良い点を上げれば切りが無く、チームとしてスクラムもディフェンスもほぼ完璧、各個人のパフォーマンスも非常に良かったように思います。
英国のある新聞では、殆どの選手に10点満点中9点の採点をつけ、堀江選手には10点満点の採点をしている位です。本当なら一人一人の物語を掘り下げたいところですが、ここでは敢えてキャプテンであるリーチ・マイケルにフォーカスしたいと思います。この日のリーチは、リザーブに回っており、前半30分にマフィの怪我により途中出場することになります。
春は怪我により試合に出ることが出来ず、回復後も以前のようなパフォーマンスを試合で発揮することが出来ていませんでした。長い間不動のレギュラーであったリーチが、ワールドカップ本戦の、しかもプール戦最強の相手であるアイルランド戦にスタメンを外されたというのは、本人にとっては非常に忸怩たる思いが強かったように思います。
しかし、その状況がリーチ本来の力を蘇らせる引き金になったようです。この日のリーチは、かつて何度も日本の危機を救い、皆を勢いづけた、あの神憑り的なタックルを繰り返し、切れのあるランで躍動しました。
リーチを評して、日本生まれの日本人以上に日本人ぽいと言う人が多くいます。インタビューでも、「小さな日本人でも大きな外国人に負けないというところを見せたい」、「日本人も凄いというところを見せたい」といった内容のことを良く言います。
実際のリーチは190cm 110kg の大男であり、今は帰化して国籍は日本であるものの生まれはニュージーランドであり、血統的に日本の血は全く入っていません。
「日本は凄いというところを見せたい」なら分かりますが、「日本人も凄いというところを見せたい」という発言を繰り返すのは何故なのか少し疑問だったのですが、リーチの幼少時代の話を聞いて何となく合点がいったのです。(リーチ本人が理由を述べた訳ではなく、筆者が勝手な想像して納得したのですが)
リーチは、スコットランド系の白人の父親とフィジー人の母親の間に生まれ、日本で言う所謂ハーフとして、生粋のニュージーランド人とは少し違う文化を持った家庭環境で幼少期を過ごします。
多様な文化を許容するニュージーランドという国にあっても、何かどこか少し馴染めきれない感覚を覚えながら育ったようです。そういう状況もあり、親友が日本留学を決めたことをきっかけに15歳で自身も日本留学を決め北海道にやって来たのです。
来日当時のリーチは、今からは想像も出来ない華奢な少年であり、この北海道での高校時代に、下宿先の主夫妻、先生、ラグビー部の仲間等、多くの温かい日本人に囲まれ、努力を積み重ねながらラグビー選手としても急激に成長していくのです。
そして、東海大、日本代表、東芝というチームにおいて、多くの家族のような仲間を得る度に、日本が大好きになり、今のメンタリティーが構築されていったように思います。
その後、東海大時代に知り合った日本人女性と結婚し、日本に帰化することになります。これは、幼少の頃、自分のアイデンティティが何なのか考えることがあったが、日本に来て、愛する日本人の女性に出会い、家族のように大事に思える日本での仲間ができ、リーチの中では日本人の一員であることが彼のアイデンティティになったのだと思います。
多分、探していた自分にとって本当に居心地の良い居場所を見つけることが出来たのではないでしょうか。そして、自分も一員であり、大事な家族である日本人が世界からバカにされるのは許さない、ラグビー選手としての自分を育ててくれた日本に対して恩返しがしたいと強く思っているのです。
しかし、当初日本代表のキャプテンに指名された時には、外国出身者である自分が引き受けても良いのか非常に躊躇があったようですが、今ではチームメンバーは勿論のこと、ラグビーファン皆が日本代表のキャプテンはリーチ・マイケルしかいないと思っていることをリーチ自身が一番感じていると思います。
一方、リーチにとっては、外国出身者が多い日本代表が、多くの日本人に自分達の国の代表として認めてもらい、心から応援してもらうことが必要不可欠だったのです。よって、自らが率先して日本の文化や歴史を勉強し、それを他の外国人選手に伝え啓蒙することにより、多種多様な文化とルーツを持つ日本代表を真に日本を代表する「ONE TEAM」に仕上げ、皆から愛さる強い日本代表チームを作ろうと努力をしていたのです。
日本に生まれ育った我々普通の日本人より、深く日本や日本人ということを考え、日本を愛し、日本のプライドをかけて世界の強豪と戦っている面々が今のラグビー日本代表なのです。スタジアムで、パブリックビューイングで、スポーツバーで、多くの日本人(勿論外国人の方も多くおられるが)がラグビー日本代表を応援している姿を見て、日本代表選手達は本当に喜んでいることと思います。
ラグビーは、“ラグビー”という合言葉で国籍やルーツが違う人達が集まって、自分達が大好きな国の代表チームを一緒に作ることが出来ます。“ラグビー”という合言葉で、国籍や文化、応援しているチームが違っても、抱き合い、健闘を讃え合い、一緒に笑いながらお酒を酌み交わすことが出来る素敵なスポーツです。
是非、読者の皆様には、ラグビー日本代表の応援は勿論のこと、死力を尽くし戦う各国の代表に大きな声援を送ってもらいたいと思います。そして、このワールドカップの期間に、日本の彼方此方で見掛ける世界中から日本に集まった陽気なラグビーファン達との交流を楽しんで下さい!
「4年に1度じゃない、一生に一度だ」ですよ!
ライター:中路由人(なかじゆうと)