【HORLOGERIE-FASHION Vol.36】遠山周平の洒脱自在


単に『流行』と訳されてきたファッションの意味が少しづつ進化している。最近は、自分らしい豊かさと幸せの熟度を現すものへと拡大解釈されているのだ。夏の日常に彩りをそえ、心を躍らせる、ファッションアイテムを選択した。

Vol.9 ブルターニュの洒脱薫る 夏の週末服

『みんな あつまれ あつまれ そしてぐるりと 輪を描け いま 真二つになる西瓜だ』風が抜ける畳の部屋にゴロンと横になって、最近手に取るのが山村暮鳥の詩集だ。これ(西瓜の詩)を読んだ後で、敷地の隅に忘れられていた古い井戸を直してみようかと考えている。夏の昼上がり井戸水に放しておいた胡瓜に麦みそをつけたら、どんなにうまかろうと。

今年も立夏は子供の日。五月晴れの空は明るく、水ぬるむけれど物憂かった春とは心地良さのギアが一段上がった感じだ。その日から約3カ月間が日本の夏で、やがて湿気をはらんだ梅雨空が続き、それをはらうように南風が吹き、夏は盛る。そんな季節の週末を、お気に入りのアイテムひとつで過ごせたら、どんなにこざっぱりして素敵なことだろう。

ブルトンシャツ(ボートネックのボーダーストライプシャツ)は、その筆頭候補となる服である。もとが漁師や海軍が着ていた作業着やユニフォームの類いだから、シンプルで丈夫、飽きがこないのも嬉しい。

なかでも今夏の注目は、アルモリュクス(Armor-Lux)の日本限定モデルとして販売されたブルトンシャツだ。アルモリュクスは、日本で先行紹介されていた二つの著名ブランドの影に隠れて知名度は今ひとつだったが、本場フランスでの人気は高い。またその品質も、バイイングの鋭さで評判の高いスペシャリティストアなどが別注をかけるほど、信頼がおける。

「ボートネックの横縞シャツなど、どれも大差ないだろう」と、思われている方も多いかもしれないが、このシャツは特別だ。たとえば梅雨寒や風の強い海辺の夕刻に重宝する長袖のブルトンシャツは、肩ラインの後ろ身が前身側に斜めに切れ込むように縫製されていて、海外のリゾート地でも注目されるデザインポイントになること請け合いだ。

いっぽう盛夏にうってつけの半袖のブルトンシャツには、トレンドを意識したビッグシルエットのボディを選んでみた。やや着丈を短くした台形のボディと少し浅めに設定されたネックホールには品があり、ゆったりした麻のショーツなどと相性が良いはず。

2種のシャツには、しなやかで肌ざわり抜群のオーガニックコットンかフェアトレードコットンが採用されている。厳選した良質な綿なのだろう、汗の吸収発散性が高く、ほどよいぬくもりがある。

さすが長らく英国の上質なへらし編みのポロシャツを扱ってきた会社が目をつけ、手をかけた品だけのことはある。ニットモノに関する理解度が深いのだ。夏の汗と、楽しい思い出となった西瓜の汁をたっぷり染み込ませたブルトンシャツが、ワードローブのなかに数枚重ねて在る。それだけで、着る人の豊かな人生が想像できる気がする。

フランスのワーククロージングに造詣が深い森万恭氏の監修によって製作されたこだわりのブルトンシャツ。独特のショルダーカットは腕まわりの稼働率も高い。1万6500円。

ユニセックスで着こなせる魅力

ルーズフィットのブルトンシャツも日本限定販売モデルのひとつ。クリーンでリラックスした着こなしが可能な、今夏らしい1着になるはず。長袖も用意されている。1万3750円。ともにアルモリュクス中目黒店 Tel.03-6433-7458

Profile
SHUHEI TOHYAMA
1951年、東京生まれ。服飾評論家。面白くもなき老後を洒脱自在に、がこのごろのモットー。新型コロナウイルス禍の下では、裁縫男子の趣味を生かして、昔、一流どころで仕立てたスーツを分解研究するヒマつぶし。たまにコレクション見物へ出ては、若手クリエーターの才能に刺激を受けたり、がっくりしたり。友人が少ないために、夜のクラブ活動は、自然にソーシャルディスタンス。そんな偏屈おやじの退屈読本、お気に障りましたら、ご容赦のほど。

 

Photographs:Yu Mitamura

2022年6月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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