【PATEK PHILIPPE 】スクエアケースに潜ませた 新しい戦慄の創造性

開け放たれた窓から外を見ているものは、外から閉ざされた窓を見ているものほど多くを見ていない」と、フランスの詩人シャルル=ピエール・ボードレールは散文詩「窓」の一節で語った。他人や物事に感情移入するのはボードレールがよくやる手法のひとつだが、この散文詩でも人間のふれあいや複雑な社会について「窓」を通してひとつの物語を作り上げている。
腕時計の文字盤は、しばしばフェイス(顔)や窓に例えられる。ボードレールに言わせれば、私たちが腕時計の時刻を見ているのではなく、腕時計が私たちの生活を見ているということになるだろうか。腕時計という「窓」を通して外の社会を眺めることはさぞかし刺激的に違いない。パテック フィリップの25年ぶりの新コレクションとなる「CUBITUS(キュビタス)」は、フラットな外観にスクエアフォルムがまさしく窓といえるデザインだ。
「CUBITUS」はcubeを由来とする名の通り、スクエア型のケースフォルムがコレクションの核心だ。世界の腕時計の85%がラウンド型である中で、ティエリー・スターン社長は長年このスクエアデザインの構想を温めてきたという。思えば、レディスコレクションの「Twenty~4」のスクエアデザインも、ティエリー社長がクリエイティブ・ディレクター時代にローンチさせたものだ。その当時からスクエアデザインに可能性を感じ、いつかメンズのコレクションに加えたいと考えていたのかもしれない。
そのプロポーションは、横幅が44.9mm、上下が44.4mm、そして10時から4時位置の対角が45mmで、直線とエッジを強調させた八角形を形成する。小径モデルがトレンドの近年ではやや大きい印象だが、腕に載せると重心が低く薄型のケースがフィットし、装着感もいい。そして通称“耳”と呼ばれるリューズガードの意匠やフラットなベゼル、ダイヤルの水平エンボス・パターンなどの基本デザインは、「ノーチラス」を受け継いでいることがわかる。3針仕様のSSモデル、SS×18KRGコンビの2型、新型カレンダーを採用したプラチナモデルの1型がラインナップされ、新コレクションのデビューを飾った。
ハイライトはプラチナケースを採用したRef.5822Pだ。5712モデルの愛用者には見慣れた4~5時位置のスモールセコンド、7時位置のムーンフェイズ&曜日表示を備えるが、10~11時位置にはパワーリザーブ表示ではなく、12時位置に一の位と十の位を別々にして日付を表示するビッグデイト機能を搭載する。そしてその日付変更にはムーンフェイズ、曜日表示もわずか18ミリ秒で瞬時送りにするという離れ技が採用されている。これらの同時ジャンプには大きなエネルギーを必要とするため、この新型ムーブメントには6件の技術特許を出願している。単なる新しいケースデザインのコレクションで終わらないところがパテック フィリップらしい。
独創性と芸術的完成度の高さをデビュー作で披露したキュビタスという「窓」。そこからは内から見ても外から見てもパテック フィリップのまったく新しい景色が広がっている。


CUBITUS Ref.5822P
同じレイヤーにある2枚のディスクで構成される大型日付表示が瞬時に切り替わるカレンダー機構など6件の技術特許を出願中の新型のCal.240 PS CI J LUを搭載。ケースはミドルケースとベゼル、ラグと裏蓋が一体成型となった2ピース構造を採用。プラチナケースはパテック フィリップのレギュレーションで、6時側にダイヤモンドがセッティングされるが、スクエアケースの形状に合わせて初めてバゲットカットのダイヤモンドがセッティングされる。自動巻き。PTケース。ケース径45(10~4時位置)mm。3気圧防水。1399万円。㉄パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター ☎︎03-3255-8109
Photographs:Noboru Kurimura
2025年3月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

