CARTIER 100周年のアニバーサリーを祝う、新生タンク ウォッチ

今を去ること100年、道路には自動車に混じって馬車が走っていた。女性たちはコルセットから解放されてはいたものの、まだ裾の長いドレスを窮屈そうに着ていた。映画はサイレントだし、レコードと蓄音機がやっと普及し始めた頃だ。

生活や文化、産業、テクノロジーのさまざまな事象がこの100年でドラスティックに変化した。それなのにカルティエの「タンク」ウォッチだけは、誕生したときと変わらないスタイルだ。

いまや伝説的となった「タンク」は、1917年にルイ・カルティエが試作したものがファーストモデル。第一次世界大戦で史上初めて導入された戦車に触発され、そのキャタピラのイメージでデザインした時計だったという。

やがて製品化されてショーケースに並ぶと、飛ぶような売れ行き。直線を組み合わせたデザインが、あまりにも斬新だったからだ。当時はまだまだ懐中時計が現役だったし、そもそも懐中時計は丸いのが当たり前だった。

デザインのトレンドはベル・エポックの流麗さを引きずっていて、シャープでモダンなアール・デコが登場するのは1920年代になってからだ。そんな中のタンクの登場。その先進性に当時の人々は目を見はったことだろう。

タンクを熱狂的に愛する「タンキスト」たちは引きも切らず、芸術家や俳優、王侯貴族からアスリートまでが格調高いミニマルな機能美に魅入られた。

流行に左右されず、いつまでも古びないタンクの美貌は、これまでの100年間で変わることがなく、またこれからの100年間でも変わらない。過去から現在へ、現在から未来へと伝えられる名作だから、誰もが夢中にならずにいられないのだ。

ちなみに、ジャクリーン・ケネディが大統領夫人時代に愛用したタンクは、今年オークションにかけられ、落札価格は予想の3倍を超える379,500ドルに高騰。

タンクのファーストモデルは現在行方がしれないが、いつかオークションに登場するようなことがあれば、途方もないプライスを記録するに違いない。

タンク ルイ カルティエ SM

1922年にデザインされ、カルティエ家の3代目、ルイの名を冠した名作に新作が登場。これまでこのシリーズはクォーツだったが、今回はメカニカルムーブメントを搭載。リューズには0.47カラットのダイヤモンドをあしらい、こだわりを強く感じさせるモデルに仕上げている。直線的なケース形状、ストラップとケースが自然につながる構造、ローマ数字のインデックス、文字盤のレイルウェイ状目盛りなど、カルティエ独自のアイコニックなディテールは変わらない。手巻き。ケースサイズ29.5×22mm。18KWGケース×ダイヤモンド、アリゲーターストラップ。210万6000円。カルティエ カスタマー サービスセンター 問0120-301-757

Photographs : Hisashi Wadano Text : Keiko Homma

2017年9月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)

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