現代の音楽レコーディングに密着&解説

writer : 西崎ゴウシ伝説
Calmera(カルメラ)

「聴く」以外に音楽に関わらない人には縁のない話だと思うが、全国あらゆる街に「音楽スタジオ」というものが存在している。
そんな音楽スタジオにもいくつか種類がある。
ミュージシャンたちが練習をするための「リハーサルスタジオ」と皆さんが耳にする楽曲を音源として作成するために録音する「レコーディングスタジオ」があり、中にはリハーサルスタジオをメイン業務にレコーディングスタジオを併設しているスタジオも存在している。

著者の私は普段は音楽を生業にさせていただいているので、どちらも利用する機会が日常的にあり全国のいろんなスタジオを利用するが、アマチュアミュージシャンも沢山利用するリハーサルスタジオは全国平均では1時間2500~3000円くらいの店が多い。一方、レコーディングスタジオは安いスタジオでも1時間6000円くらいから、プロユースのスタジオだと1日何十万円というスタジオもある。
ちょうど私のバンドCalmeraのレコーディングがあったので、今回はレコーディングスタジオについて簡単ながら紹介させていただこうと思う。

レコーディングスタジオと言っても多種多様あるが、リハーサルスタジオと大きく違うのは、録音するにあたり実際に楽器の音を出したり歌を歌ったりするブース(部屋)とは別にコントロールルームという部屋が隣にあり、そこで実際に機材を操作して録音する。
僕が十代の頃の録音はアナログのオープンリールなどで機材で録音していた。分かりやすく昔の家電で例えるならカセットテープの機械で録音ボタンを押すというのに似た人力作業だったが、現在はMacを使い録音ソフト「ProTools」で録音するというのが世界的スタンダードになっている。


もちろんながら録音ブースもコントロールルームもそれぞれが独立した防音室なので、地声では部屋同志のコミュニケーションができないので、コントロールルームには「トークバック」というボタンがあり、そのボタンを押してる間のみ、演奏者のヘッドホンにコントロールルームからの音声を送ることが可能になる。

この録音ブースの数もスタジオによって異なるが、部屋の数が多いほどいろんな楽器を同時にたくさん録音できる。
「同時に」と書いたが、録音方法も利用者によってそれぞれ異なるので、ひとことでは説明するのは難しいが、たとえばドラムを録音している部屋にはドラムにたくさんマイクが向けられている。ドラムと同じ部屋でギターアンプを鳴らして録音してしまうと、ドラムのマイクにもギターの音が入って録音されてしまうし、ギターアンプに向けてるマイクにもドラムの音が入ってしまうので、ギターが一箇所間違えた箇所を修正したくても、ドラムもやりなおさなければならないという現象が起きてしまったり、ミックスというそれぞれの楽器の音量や音質などを調整する作業の時にも、ギターの音量をあげたら、そのマイクが拾ってしまっているドラムの音も上がってしまうというデメリットが発生してしまうのだ。

それを踏まえて、最初にドラムだけ録音して成功したら、次にベースを入れて、というように1パートずつを何度も何度も重ねて録音していくスタイルのミュージシャンもいるが、私のやってるCalmeraにおいては、JAZZという特性もあるので、ライブ感や演奏のテンションを互いに感じながら、たとえばソロのフレーズがアツくなっていったら、リズムセクションもそれに併せてアツくしていったりということが必要となるので、可能な限り一度で録音したいので、録音ブースが多くあるスタジオが必要となってくるのだ。
もちろんその分、広い場所が必要なので料金的にもハイエンドなスタジオに絞られてくる。

今回使用した祐天寺のレコーディングスタジオ「Mech」の5番スタジオは合計5ブース(図参照)あり、Main Boothにドラムセットを配置し、ギタリストとベーシストはアイコンタクトの出来る同じMain Booth内で実際演奏するものの、アンプだけをAmp Boothという別ブースに入れてマイクを設置して録音するので、実際Main Boothのドラムに設置されたマイクには音が入ることはなく、同じテイクの録音での、それぞれの修正も可能となる。
同様にピアノ単独の部屋にピアニストが入り演奏。通常はボーカリストが歌う部屋だがCalmeraは歌の代わりを管楽器がメロディをとるインストゥルメンタルのバンドなのでVo Boothと記載されている場所に、管楽器メンバーが入り「せーの」で全員で演奏し録音する。
もちろん広い部屋の方が響きも良くなるので、管楽器パートに広い空間で録音した音質が欲しい場合は、Main Boothにて再度管楽器を録音しなおすというのがCalmeraにおいての標準的な録音スタイルになっている。


↑ドラムセットはこの日のサポートドラマー田中匠郎氏による持参のYAMAHAのセット

↑ピアノはスタジオに常設されてあるYAMAHA C5

↑イタリア製メーカー”Alter Ego”のアップライトベース。ジャズにおいてはウッドベースを使用される場合が多いがCalmeraの様な大音量のバンドの場合、マイクのハウリングなどの問題が非常に難しくアップライトで代用しているが、なかでもこのAlter Ego社のものはかなり本物のウッドベースに近い音色を獲得できる。


↑Vocal Boothにすし詰めになるホーンセクション

ここで録音した後に、コントロールルームに集まり、見つけた修正点をそれぞれ修正していく。
ちなみにコントロールルームにはいくつもスピーカーがあるが、スピーカーによっても音が全く変わってくるので、スタジオにはいろんなスピーカーが用意されており、聞き比べながら調整していく。

多くのスタジオにおいては、メインのレコーディングエンジニアとアシスタントエンジニアがおり、メインエンジニアの指示のもと、アシスタントエンジニアが実際にMacのProtoolsを操作するというのが標準的だ。

↑アシスタントエンジニア用のMac画面。

話は大きく逸れるが、近年どんな業界でもペーパーレス化が著しく進んでるが、音楽業界においても、iPadなどのタブレットで楽譜を管理する人がどんどん増えており、Calmeraにおいても全員のメンバーがiPadで楽譜管理をしている。
必要なメモなどもiPad上に直接Apple Pencilなどで書き込むことが出来、非常に便利である。
またCalmeraはアーティストのバックバンドとして演奏する機会も多いので、多くの譜面を利用することがおおいので、管理するだけでも非常に助かっている。
うちのメンバーにおいては全員iPadだが「forScore」と「Piascore」の二つのどちらかを利用しており、著者の私的感想だとforScoreの方がメモ機能など優れている点が多いが、リアルタイムに演奏しながら「めくる」という機能に関してはPiascoreに軍配があがるという感じなので、なかなか選ぶのは難しい。

ちなみに楽器演奏中に両手が塞がるパートも多いがそんな人たちのために、フットスイッチを使い足で踏んで楽譜をめくることが可能になるIK MULTIMEDIA社のiRig BlueTurnという機材も、数多くのスタジオミュージシャンから愛用されている。

ここまで記したように、それぞれのアーティストがそれぞれのやり方で、命をかけて音を吹き込んで、作品にしていく。
今回、少しだけでも録音方法というものに触れていただいて、ほとんどはCDに入ってる印刷物に録音した場所や人がクレジットされているので、アーティストが作品にどんな思いを込めて、どのような手段で録音したのか?なども想像しながら、音楽を聞いてもらえるとまた一つ聞く楽しみが増えるかもしれない。

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