【藤崎聡子の一品×逸品ワイン】自宅で、世界の五輪めぐり
五輪イヤーに誕生したワインは、不思議と時代の特徴を反映している。味わい、熟成、ポテンシャル、どの角度から見ても興味深いものばかりだ。来るスポーツの祭典を前に、この3本でプレイバックしてみてはいかがだろうか。
4年ごとに開催される五輪とブドウの成長、非常に近い感覚がある。ブドウの苗を植樹して、ようやくワインになる果実が収穫できるまでに平均して4年ほどかかるからだ。また、環境も然り。ブドウが成長していくエリアが、20世紀では難しいと評されていた国で拡大が始まっていて、不思議と五輪開催地とリンクしている。これは技術的な進歩だけではない。地球の温暖化により環境が変わってきていることに起因するのだ。
なかでも、今回紹介する近年の五輪開催地で醸された3本のワインは、21世紀を象徴する、先見の明があるものばかりと言ってよいと思う。過去、12年の夏季五輪を振り返りながら、紹介してみよう。
最初の1本は、2008年北京。中国ワインの新しい時代を象徴するシャルドネが収穫された。広大な手つかずの土地があることを考えるとワイン作りに挑戦する方が絶対いるわけで、その方が収穫直後から今の味わいを想像できたのだとしたら、これは驚愕する。ブドウのポテンシャルの高さにも感心させられる。
続いて、2012年ロンドン。実は、シャンパンの味わいは、この国のトレンドが大きな影響を与えてきていることを知っておくべきだ。そして何よりも地球温暖化によって、ブドウ栽培のエリアが北へ広がっていることがイギリス・スパークリングの存在意義を確立した。どのブドウ品種も酸味のあり方がパーフェクト。熟成させることで生まれる穏やかな味わいも見事だ。
いよいよ2020年東京。ブルゴーニュ地方と緯度が同じ、環境が似てきているとワイン評論家達が注目している北海道からピノ・ノワール100%のスパークリングが誕生した。口当たりのクリアな印象はこれからの日本ワインの道しるべになるだろう。7月を目前に控え、五輪イヤーに誕生したワインとともに、絶妙な塩加減の枝豆をお共に、思い出を振り返ってみてはいかがだろうか。そんな楽しみ方も今年ならではだろう。
2008年のシャルドネは長期熟成に耐えうる逸材と実感
1892年中国・山東省に設立。海からの風と穏やかな気候がブドウのポテンシャルの高さを確立している。熟成からくる旨みとシャルドネ本来の酸味がバランス良い。今この状態で飲める2008年はなかなかお目にかかれない。シャトー・チャンユー・カステル「シャルドネ2008」750ml 6050円 ㉄イーストワン
2012年満を持してイギリスで誕生もう一口欲しくなる味わい
シャンパン製法、ブラン・ド・ブランながらドゥミ・セック(中甘口)。シャルドネの酸味がドザージュ(糖分添加)によってブドウ本来の旨みを引き出している。フルーツなら糖度の高いマンゴーがお薦め。ナイティンバー「キュヴェ・シェリー・マルチヴィンテージ」750ml 8800円 ㉄TYクリエイション
2015年収穫2020年発売 熟成の面白さが見事に表現されている
zすべて手摘みのピノ・ノワール100%、シャンパン製法で仕上げたヴィンテージ・スパークリング。果実のボリュームと酸味のバランスが完璧。キャメルファームワイナリー「キャメル ブリュット メトド トラディショナル ブラン・ド・ノワール2015」750ml 6600円 ㉄キャメルファームワイナリー
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Photo:Naruyasu Nabeshima
2021年6月「HORLOGERIE]本誌より引用(転載)